税制改正大綱の内容について
帳簿、決算・取引書類保存の電子化で業務効率の向上へ ~インボイス制度への効率的な対応~
2022年12月16日(金)にようやく令和5年度税制改正の大綱が公表されました。例年より遅めの公表という印象を持っています。防衛費増額に向けた増税の検討の影響もあったかもしれません。
電子帳簿保存法に関しては、
が、記載されています。
帳簿に関しては、優良帳簿として保存するには、すべての帳簿の電子化が必要とされており、「すべて」とはどこまでかという点で躊躇するため、優良電子帳簿の普及が進んでいないという現状があり、そのために今回の発表に至ったと思われます。電子化する帳簿の範囲が非常に狭くなったというわけではないですが、明確化された意義は大きく、来年以降の優良電子帳簿の普及が見込まれると推測しています。やはり、優良電子帳簿として保存することにより、過少申告加算税が軽減される効果は小さくないと思っています。
スキャナ保存については、さまざまな要件がありますが、要件のなかには重要なものと、やや重要性が劣るものがあると思っています。筆者が個人的にやや重要性が劣る要件として位置付けていたものに関しては「廃止」などと記載されているので、実務の観点から合理的な改正がなされると理解し、歓迎しています。
電子取引については、現行は「宥恕措置」が実施されており、今後は「猶予措置」になるとあります。こうした変化をどう理解して良いか迷うところです。「宥恕措置」というのは、国会が制定した法律は施行されているものの、行政の判断により、法の執行を止めているような意味合いもあり、三権分立の観点からは、長期間実施することは望ましくありません。そのため、「宥恕措置」が延期されるという選択肢は取りにくいという事情があります。
そういったことなどにより、立法措置をともなう方法で新たに「猶予措置」が導入されることになったのではないかと推測しています。そして、「宥恕措置」と比較すると、新たに「ダウンロードデータの求めに応じる」という要件が加わっています。この点、「宥恕措置」より少し厳しくなったのではないかという印象があります。
今後の税制改正の内容の明確化が待たれるところです。
また、インボイス制度においても、いくつかの改正がなされる模様です。そのなかで注目しているのは、「売上に係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務を免除する」というものです。
インボイス制度対応のために、振込手数料について、どのような解釈をすべきかが議論されています。売手負担の場合は、振込手数料を差し引いて振り込む行為を、実質的に値引と捉えて、インボイスのやり取りをすることが多くの会社で検討され、場合によっては、売手負担をやめて買手負担に統一しようという動きすら現れています。
本来は、税制というものは、自由な経済活動を行い、それに対して適正な課税を行うものです。税制に対応するために経済活動の態様が変わることは、あまり望ましくない状況であるという考え方もあるようです。
こうした点も踏まえて、少額取引の返還請求書不発行が大綱に記載されたともいえると思われます。
今回公表された税制改正の大綱は、あくまでも与党の方針なので、今後、国会で法律が制定され、その後、法律に基づき、通達、QAが制定される流れとなります。
そのなかで、改正の内容も明確化されていきますので、また、情報発信させていただく予定です。
皆様の業務対応の検討の一助となれば幸いです。