若手が年功序列を望む時代に考えるべきこと

最近、「若手が年功序列を望んでいる」という話を聞いたことはないでしょうか。
産業能率大学総合研究所が2025年度の新入社員を対象に実施した調査※では、年功序列的な人事制度を望む回答が56.3%となり、成果主義的な人事制度を望む回答の43.6%を上回りました。同調査が開始された1990年度以降、年功序列を望む回答が成果主義を望む回答を上回ったのは初めてとされています。
※出典:学校法人産業能率大学総合研究所「2025年度(第36回)新入社員の会社生活調査」

この結果を見て、「最近の若者は安定志向だ」「挑戦する意欲が低下した」と感じる方もいるかもしれません。しかし、人事として注目すべきは、年功序列支持という結果そのものではなく、その背景にある若手世代の価値観の形成プロセスではないでしょうか。
近年の若手世代は、コロナ禍や物価上昇など不安定な社会環境のなかで社会人になりました。加えて、その多くは、バブル崩壊後の長期不況や就職氷河期、リーマンショックなどを経験した親世代のもとで育っています。若者自身がそれらを直接経験したわけではありませんが、家庭のなかで親の苦労や将来不安に触れるなか、「安定した会社が良い」「失敗は避けたい」といった価値観が少しずつ形成されていったのかもしれません。
つまり、若手世代が年功序列を支持しているのは、「年齢を重視して処遇を決めてほしい」からではなく、「不確実性の高い環境のなかで少しでも安定を得たい」からだと考えられます。

ただし、ここで注意しなければならないのは、若手世代が年功序列を支持していることと、年功序列が正しい解決策であることは別問題だということです。
かつて年功序列が一定の合理性を持っていたのは、その前提として終身雇用と経済成長が存在したからです。同じ会社で長く働けば給与が上がり、会社も従業員を守ることができました。
しかし現在はどうでしょうか。技術革新のスピードは加速し、市場環境は数年単位で大きく変化しています。大企業であっても将来が保証されているわけではなく、一つのスキルだけで働き続けられる時代でもありません。
もはや年功序列そのものが安定をもたらす時代ではないのです。本当の意味で安定を手に入れたいのであれば、変化に適応できる力を身に付けることが重要なのです。

穏やかな海でしか泳いだことがなければ、いざ荒波に直面した時に対応することはできません。一方で、波のある環境で経験を積んだ人は、環境変化にも柔軟に対応できます。
皮肉なことに、安定を求めるのであれば、ある程度の不確実性や挑戦を経験しなければならない時代となっています。変化の激しい時代における真の安定とは、年功序列に守られることではなく、自ら環境変化を乗り越えていける力を持つことではないでしょうか。
だからこそ、企業が若手の不安に応える方法も、年功的な制度や横並びの運用へ回帰することではありません。
必要なのは、失敗を許容し、成長を後押しする仕組みです。
挑戦した結果の失敗を過度に責めない。若いうちから責任ある仕事を任せる。短期的な成果だけでなく挑戦や成長のプロセスも評価する。失敗から学びを得られる機会を提供する。
こうした環境があって初めて、社員は安心して挑戦できます。そして、その経験の積み重ねが変化への対応力を育みます。

若手の年功序列支持という調査結果は、「年功序列に戻るべきだ」というメッセージではありません。むしろ、「失敗を恐れず成長できる環境が不足している」というサインとして受け止めるべきではないでしょうか。
人事に求められるのは、若手を守り過ぎることではありません。安心して挑戦できる環境を整え、成長を後押しすることです。その積み重ねこそが、個人にとっても企業にとっても、これからの時代の本当の安定につながるのだと思います。