権利を知らないまま働く7割 ― 中小企業に問われる、パートへの向き合い方

東京都が4年ぶりに実施した「パートタイマーに関する実態調査」の結果によると、約7割のパートが、正社員との間に「不合理な待遇差がある」と感じていることがわかりました。
さらに、有期雇用で5年を超えて働くと無期雇用への転換を申し込める「無期転換ルール」を「知らない」と答えたパートも、約7割に上ることも明らかになりました。
皆さんはどちらの数字に目が留まったでしょうか。私は、後者に、より深刻な問題が潜んでいると感じています。

無期転換ルールは、2013年の改正労働契約法によって定められた制度です。同一の使用者のもとで有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申し込みによって無期雇用契約に転換できる、というものです。
雇い止めへの不安解消と安定した雇用確保を目的に施行から10年以上が経ちますが、7割近くのパート労働者が「知らない」という現実があります。これはなぜでしょうか。
2024年4月からは、無期転換申込権が発生する有期労働者に対して、その権利を労働条件通知書に明示することが企業に義務付けられました。
つまり、労働者が「知らないまま」である状況は、もはや本人の情報収集不足の問題ではなく、企業側の制度整備や周知の問題として受け止めるべき段階なのです。
しかし、本質的な課題は、周知の徹底だけではありません。

仮に無期転換ルールを知った労働者が申し込みをした後に、給与や処遇は改善されるのでしょうか。
実は、無期転換ルールによって契約期間が有期から無期になっただけで、給与や昇給などの労働条件は有期の時と同じという企業が一定数存在するのだそうです。
権利を行使した先に、実質的な変化がないのであれば、その制度は労働者にとって本当の意味での安心を提供できていない、ということになります。
つまり、「知らない7割」と「待遇差が残る7割」は、根本的には同じ課題といえるのではないでしょうか。
それは、「パートタイマーに、どのような役割を期待し、どのようなキャリアを用意するか」が企業のなかで設計されていない、という人事制度上の課題です。

具体的には、以下の3点に取り組むことが、課題解決の糸口になると考えます。

  1. 雇用形態ごとの役割と処遇を整理し、明文化する
    正社員とパートタイマーの役割・業務範囲・責任の違いを明確に定義することで、「なぜこの待遇か」を説明できる状態をつくります。これが「不合理な待遇差」の解消につながり、同一労働同一賃金ルールを守るための土台になります。
  2. 無期転換後の処遇を「転換前」に設計する
    転換申込権が発生する前に、役割・賃金・昇給の仕組みを整えておくことが重要です。転換後のキャリアが見通せる状態を設計することで、雇用期間が変わるだけで処遇はそのままという「ただ無期」の事態を防ぐことができます。
  3. 制度の周知を、契約更改時の「条件提示」だけではなく、日常のマネジメントまで落とし込む
    制度を労働条件通知書に記載するだけでは十分ではありません。直属の上司が「今の働き方への満足度」「今後の希望」を確認できる関係性と仕組みが、結果的に法的義務の履行にもつながります。パートタイマーであっても、日々の関わりのなかでマネジメントすべき貴重な人財であることに変わりはありません。

「権利を知らないまま働いている人が7割」という事実は、制度の周知不足という問題だけではありません。
その7割が自社で何年も貢献してきたパートタイマーであるとしたら、企業としての人事管理のあり方を問い直す重要課題として受け止めていただきたいと思います。
人手不足が深刻化し、パートタイマーも貴重な戦力である昨今、「法律に違反しない」水準の対応から一歩進んで、「長く安心して働き続けられる環境設計」という視点で、自社のパートタイム雇用のあり方にも目を向けてみてはいかがでしょうか。