評価は何のためにあるのか ― 生成AI活用が問う評価制度の本質

日々の生活や仕事において、今や「生成AIの活用が必須」といっても過言ではない時代となってきました。
とくに若手層は、就職前から「日常生活で生成AIを活用すること」があたりまえという方も多いのではないでしょうか。
しかし、入社前から生成AIに慣れ親しんでいることで、目の前の課題や解決策に対する飲み込みが早い一方で、意図せぬ答えをも承諾してしまうリスクへの意識が低い、という記事が目に入りました。

この記事では、若手社員が、半期の成果報告における自己評価を生成AIに作成させて提出したという事例がピックアップされていました。問題となったのは、実際には達成しなかった目標項目までもが成果として書かれていたことです。上司の指摘を受け、その社員は生成AIの利用を認めたそうですが、これは若手社員だけに問題があったといえるでしょうか。

この事例について、「AI利用ルールの不徹底が問題」と感じた方も多いかもしれません。もちろんこれも問題ではありますが、私は、より根本的な問題が潜んでいると考えました。
それは、「なぜ自己評価を自分で書かなければならないのか」という目的が、その社員に十分に伝わっていなかったということだと思います。目的がわからなければ、「文章を書く作業」としか捉えられず、安易に生成AIに文章をつくらせることは自然な流れともいえます。

評価制度における自己評価の目的は、単に上司に成果を報告することではありません。期初の目標に対して自分がどう行動し、何を達成できたのか、未達の場合はその原因は何かを振り返ることで、次の成長につなげる「内省の場」でもあります。
その内省の機会を生成AIに委ねてしまうと、評価制度の本来の目的を果たすことができません。結果として、評価が「書類の提出」という形式的な作業になってしまいます。

生成AIの台頭により、文章を作成する作業はあっという間に人からAIに代替されるようになりました。だからこそ、「この作業はAIに任せて良いのか、人間が担うべきなのか」という判断力を若手社員に身に付けさせることが、企業に求められることではないでしょうか。

では、具体的にどのような対応が考えられるでしょうか。

  1. 評価制度の「目的」を、制度設計のなかで明文化して浸透させる
    目標を立てること、評価を実施すること、これらの説明をする際に記入方法のみを伝えていませんか?「なぜ目標を立て、期末に自己評価をするのか」という根本的な目的を言語化し、浸透させることが重要です。目的が明確でなければ、社員は評価を「こなすべきタスク」として捉えてしまいます。
  2. 上司が評価面談を「対話の場」として機能させる
    自己評価の質は、上司との面談によって補完されます。「この結果をどう振り返っているか」を対話のなかで深掘りすることで、AIが介入しにくい本質的な内省を引き出すことができます。評価制度の実効性は、管理職のマネジメント力によって大きく左右されることを、改めて認識しておく必要があります。
  3. 「AIに委ねて良いこと・人間が担うべきこと」を定義し、AIに関する教育を推進する
    自己評価や目標設定のような内省をともなう業務はAIに委ねない、最終的な判断と責任は人間が担うといった業務遂行におけるAI活用の基準を明示することが求められます。AIの操作スキルを学ぶだけでなく、実際の業務でどう使い分けるかまで踏み込んだ教育が重要です。

このような事象、すなわち若手社員が自己評価を生成AIに書かせてしまうという状況は、評価制度の目的が社員に届いていないサインかもしれません。
こうした事例をきっかけに、自社の評価制度が本来の機能を発揮する形で社内に浸透しているか、制度設計と運用の両面から見直していただければと思います。