「他社はどうしているのか?」から制度を考えていないか ― 人事制度設計における“統計依存”の落とし穴 ―

人事制度の見直しや新規設計の場面で、「他社はどうしているのか」という問いが出ることは珍しくありません。

今の時代、人事制度に関する各種調査結果や統計データは随所に存在しており、調べようと思えば欲しい情報を得ることができます。また、具体的な評価制度や賃金制度、等級制度に関しても、一定の“多数派”の傾向を把握することは難しくなくなっています。
こうした情報が、検討材料として有用であることは間違いありません。

例えば、評価制度に関する統計を見ると、「2次評価では相対評価を採用している企業が多い」といった結果が示されることがあります。
これを見て、「多くの企業が採用しているのであれば、自社も相対評価を取り入れよう」と考える企業もあると思われますが、これは本当に適切な意思決定でしょうか。

冷静に考えれば、ここには一つの見落としがあります。
それは、統計上の“多数派の答え”には、多くの企業が同じように抱えている課題も、そのまま内包している可能性が高い、という点です。

評価制度に限らず、「評価が形骸化している」「納得感が得られない」「評価結果が人財育成や配置につながっていない」といった課題を抱える企業は少なくありません。
そのなかで、多くの企業が採用しているからといって、“多数派の仕組み”を安易に取り入れてしまうと、他社の課題をも受け入れてしまい、構造的な機能不全を引き起こすリスクがあると考えるべきです。

同様のことは、ほかの制度領域でも起こります。
例えば、

  • 等級制度を職能資格ベースにするか、職務ベースにするか
  • 賞与を個人業績にどこまで連動させるか
  • 管理職登用を年次主導で行うか、選抜型にするか

いずれも統計的には“多数派”が存在しますが、それが自社にとって最適であるとは限りません。
むしろ、多数派であるがゆえに、同じ前提のもとで同じような問題を抱えている可能性を疑う視点が必要です。

では、制度設計においては何を基準に置くべきでしょうか。
結論はシンプルです。
「他所は他所。うちはうち」という原則に立ち返ることです。
もちろん、これは外部情報を無視するということではありません。
重要なのは順番です。

  1. 他社事例や統計を先に見る。ただし、単純にそれに合わせるのではなく
  2. 自社として何を実現したいのか、どのような組織をめざすのかを明確にしたうえで
  3. その目的に照らして、どのような制度が適合するのかを判断する

このプロセスを外してしまうと、制度は「借り物」になり、自社の実態と噛み合わなくなります。

統計はあくまでも「傾向」を示すものです。
そこにあるのは正解ではなく、「多くの企業がそうしている」という事実にすぎません。

これからの人事に求められるのは、多数派をなぞることではなく、自社の前提と目的に立脚して制度を選び取る意思です。

今一度、自社の制度検討の場面を振り返ってみてください。
意思決定の根拠が、「他社がそうだから」になっていないでしょうか。
もしそうであるならば、その制度は“設計されたもの”ではなく、ただ“寄せ集められたもの”になっている可能性があります。

制度は比較で決めるものではなく、目的で決めるものです。
この原点に立ち戻れるかどうかが、今後の人事の質を大きく分けていきます。